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(6)映画『レナードの朝』とオリバー・サックス博士

私が音楽と医学の関係でまず思い浮かぶ人物は、アメリカの脳科学者で医師のオリバー・サックス博士です。
彼は、現在ニューヨークで世界中から脳腫瘍、脳卒中などの脳疾患の後遺症やパーキンソン病、自閉症などさまざまな疾患で悩む人たちの治療にあたりながら、音楽が医療や介護にどれだけ役に立つのかとかいう事柄を研究したくさんの著書を出版しています。
その中で最も有名な著書が、映画『レナードの朝』の原作となった『目覚めAwakenings』という本です。
六十年代のボストンの病院で、その頃まだインターンだったオリバー・サックス博士は嗜眠性脳炎と呼ばれる難病によって、身体の動きやことばをまったく失ったり、同じ動作を一日中延々と繰り返したり、意味不明のことばをわめきちらす患者などの治療にあたります。

この映画の中で博士は、ドーパミン系のL-ドーパという薬で患者たちを奇跡的に目覚めさせます。
しかし、その喜びの束の間再び元の症状に戻ってしまう患者たちの姿や悲劇が原作や映画では実話として描かれます。
ロバート・デ・ニーロの演じるレナードという患者の青年と見舞客の女性との淡い恋もこの映画の一つの見所でしたが(この部分は創作です)、この映画の結末を観てきっと多くの方は疑問に思ったかもしれません。
というのも、この映画の最後はいわゆる「ハッピーエンディング」ではなかったので、「一体この患者たちはこれからどうなってしまうのだろう?」という何か煮え切らない気持ちのまま映画が終わってしまうからです。
この疑問と煮え切らなさは、実際に治療にあたったサックス博士(映画の中ではセイヤー医師と呼ばれています)自身の疑問でもありました。
病気の原因がドーパミンの不足とわかったものの、このL-ドーパという薬のあまりの効き目と逆にそこから起こる副作用の強さに博士自身も「この薬を本当に使い続けて良いのだろうか?」と疑問に思ったからです。

現在、パーキンソン病の治療にこのL-ドーパという薬は実際使われています。
しかし、その「効果」は絶大であるがゆえに、この「特効薬」のリスクを多くの医師はためらいます(通常は、ドーパミン系の別の薬をまず使います)。
そのリスクは、五十年前のボストンでサックス博士が感じたリスクとそっくりそのまま同じです。
認知症もこのドーパミンが関係していると主張する学者はたくさんいます。
それどころか、自閉症にも多動性障害やその他の精神疾患にもドーパミンという神経伝達物質が関与していると考える説が近年どんどん主流になりつつあります。
しかしながら、だからといってドーパミンを与えればそれで事足りるというわけではありません。
人間の神経細胞のネットワークもシナプスの情報伝達を司るドーパミンなどの神経伝達物質も必ずしも人間に「利する」作用ばかりを起こすわけではないからです。正常な人間では自然にコントロールされるその「量」のコントロールが、薬ではとても難しいのです。

サックス博士は、嗜眠性脳炎の患者の治療で感じたリスクを回避しようと「副作用のない音楽による治療」を思い立ちます。それが、音楽と医療の結びつきです。
以来、彼は、音楽と人間の身体の不思議な関係に着目した治療を行い続けている数少ない医師、脳科学者の一人なのです。
彼の数々の著作を読むと、彼の臨床体験に基づいたさまざまな患者の例が提起されています。
パーキンソン病を患った老女がアイルランドのジグを踊ることによって「自発的な動き」を取り戻した話であるとか、脳腫瘍によって記憶を失った若者が音楽で記憶を取り戻した話、あるいは、「歌を歌う」ことによってことばを取り戻した失語症の患者の例だとかが数限りなく取り上げられています。

サックス博士の治験例を待たずとも、吃音障害や失語症に「歌を歌う」治療が有効なことはヨーロッパではかなり以前から知られていました。
まさしくその良い例が、映画『英国王のスピーチ』の中で取り上げられています。
「映画」は、現在のエリザベス女王の父であるジョージ六世の吃音障害を治癒させた「歌による」治療を随所で描いています。

そして、一昨年の2011年の1月に脳に銃弾を受け瀕死の重傷を負ったアメリカの下院議員ガブリエル・ギフォード議員が奇跡的にことばを取り戻したのもこの歌による「音楽療法」のおかげでした。
このギフォード議員の実際の治療現場を撮影した映像がyou tubeで観られます。
http://youtu.be/TQi7btgt_fw

しかしながら、こうした「薬や外科手術に頼らない治療」は全て「代替治療」として医療の本質とは異なるもの、ある意味、「呪術的な治療」というレベルで扱われてきていますし、その本質は現在もあまり変わっているとは言えません。
とはいえ、原子力エネルギーの代わりに自然エネルギーを代替エネルギーの主流に換えようという方向に世界全体が傾いている現在、人間の心と身体の本質を「薬と手術」だけに頼る西洋医学からもう少し「人間とは何か」という本質的な部分から見直していくと、きっともう少し「優しい治療、優しい介護」に辿り着くのではないのかなと思わずにはいられません。
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テーマ : 心、意識、魂、生命、人間の可能性
ジャンル : 心と身体

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プロフィール

みつとみ俊郎

Author:みつとみ俊郎
MUSIC-HOPEプロジェクトを主宰するみつとみ俊郎は、作曲家、フルーティスト、音楽評論家、指揮者として40年間日本、アメリカの第一線で活躍してきた音楽家。脳卒中に倒れた妻の介護をしながら音楽を医療、介護の現場で役立てるため、日々研究と実践に励んでいる。

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